「何もしていないのに壊れた」の言葉が正しい1割未満を引き当てた話

「何もしていないのに壊れた」という言葉、PCや電気製品に不馴れな人が度々口にする上に大抵は「何かしらやったから壊れた」が正しく、修理関係者や熟練者をげんなりさせる言葉だ。
だが、9割以上が「何かしらやったから壊れた」のであれば残る1割未満は本当に「何もしていないのに壊れた」ということになる。これは中東でスクラップヤードか警察・税関の差押え品保管庫から超高級車が見つかる可能性よりは低いが、ありえなくはない話だ。
今回はそんな事例を一つ取り上げる。

MSIというメーカーを知っているだろうか。
今はPCパーツではやや知名度が低くなったものの、PCパーツの他に完成品のデスクトップPCならびにノートPCも自社ブランドで販売するメーカーだ。
ただ、MSIが完成品ノートPC市場に参入したのは約10年前。それ以前はというと「ノートベアボーン」という形で一部代理店に卸していた。
ノートベアボーンというのは「CPU・メモリ・ストレージ以外を(一部オプションもあるが)全て組み立てて、後は該当するパーツを組み込んでマニュアル通りに組み上げてOSを入れるだけの状態で出荷される販売方式」のことだ。
最近はあまり耳にしなくなったが、実はユニットコムなどのBTOメーカーは「ノートベアボーンを製造しているメーカーに自社指定のオプション(残り部品全て)を組み込んでOSを入れた状態で出荷してもらい、自社でサポート用のディスクを組み込んで販売する」方式を採っているため事実上「ノートベアボーンのバッジエンジニアリング」と言って良い。
ノートベアボーンは「外観が当たり障りのない安っぽい物になることが多い」という欠点と引き換えに「選択できる部品の幅が広い(ここが重要)」という利点を持つ。よほどの超ハイエンド前提仕様でもない限り、CPUソケットが同じCPUならハイエンドからローエンドまで対応できるよう電源設計に余裕を持たせているのが特徴だ。
例えばSandy Bridge世代のモバイルCPUを例に挙げるとCore i7クアッドコア仕様はTDP(定格出力)が45Wなのに対しi7のデュアルコア仕様とi5ならびにi3、PentiumCeleronの標準仕様はTDP35Wと10W変わってくるし、それらの省電力仕様はTDP25Wから17Wと2/3~1/2まで消費電力を抑えた仕様になっている。逆にExtreamと呼ばれるハイパフォーマンス仕様はTDP55Wと消費電力もハイパフォーマンスだ。
普通のメーカー製PCであれば「その型番のPC、ないしは基板を共用する系列のPCの中で一番定格出力の高いCPUまでに対応させる」ことで電源周りの設計並びに電源アダプタを最小化させるため、下手にTDPの高いCPUに取り換えるとコンデンサが飛んだり電源周りから火が出る事態になることも有り得なくはない。
それに対し、ノートベアボーンは「開発時点で想定される上位(※最上位は一部のタイプのみ)のCPUまで電源を対応させる」ため、電源アダプタこそ大きく重いものになるがパーツ換装に対する許容値が大きい。そう、「開発時点で出ていたパーツであれば」

自分が引き当てた「本当に何もしていないのに壊れた」事例は「(代理店がベアボーン製造メーカーが開発時には想定していなかったCPUをBIOSアップデートの上で搭載して販売した結果、購入した)自分は何もしていないのに(電源周りに過負荷が掛かってコンデンサが1年と持たずに)壊れた」事例となる。
ただ、これだけであれば「運がなかった」で済むのだが、サポートの対応が酷くて「二度と買わん」となったという訳だ。
1年以内の不具合だったので、当時の自分は特段何も手をつけずに販売店のサポートカウンターに持ち込み修理を依頼した。2月下旬で中国本土でも春節が終わった頃の話だ。
その際販売店側からは「台湾に送って修理してもらうので1ヶ月くらい掛かる」と伝えられていた。
……その年の4月2日に入院した時点でまだ製造元からの連絡は一切無かった、二週間半ほどで退院した時点でもなお連絡来ずの状態である。
「基板交換しました」との通知と共に販売店に戻ってきたのはGW前。販売店のサポート担当者も呆れるあまりにも期間の長すぎる修理対応であった。
ただ、その際に販売店のサポート担当者は庫のような事も言っていた、「これが発売されたのは前世代のCPUの頃ですから、大幅に刷新された新世代のCPUに対応しきれていないのかもしれません。もしかしたら再発するかも」と。
……その担当者の予想は見事に的中。修理完了後4ヶ月かそこらで再び同じ症状を起こして壊れ、自分は再修理依頼を諦めてHP(ヒューレットパッカード)のノートPCを買ってHDD以外放棄したのであった。

これがあってからMSIを自分は「個人的には一切買わない」メーカーにしている。
ちょうどCore DuoからCore 2 Duoに置き換わる時期でBIOSアップデートだけで載せ換えができたというのも理由としてはあるだろうが、修理に時間を掛けすぎるのは論外としか言いようがない。
しかも「修理完了しました」と言っていたにも関わらず短期間で症状が再発した時点であきれ返る以外に表現が見当たらない。
Dellは「自分の関わった機材で外れ機材の比率が高い」だけだったが、MSIは「昔サポートで酷い目に遭った」というのが理由なので一発アウト扱いになった。
ただ、完成品ノートPCに関してはきちんと販売国に修理拠点を置くか修理期間を短くしている……ものと信じたい。そうでなければ、完成品ノートPC市場から約10年間退場することなく新製品を送り出し続けられている理由が思い浮かばない。